黒人の発声法(R&B編)
注意1)このサイトに貼っているYouTube動画は、Safariでは「動画を再生できません」と表示される動画が多々あります。
その場合は「YouTubeで見る」をクリックすると再生出来ます。
パソコンの場合はGoogle Chromeであれば全動画をダイレクトに再生出来ます。MacBook Proで確認済み。
またこのページは動画が多い為に、iPhoneをお使いでSafariでページを開いた場合は「ページを開けません」となり、ページが閉じてしまう場合がありますので、iPhoneをお使いの場合はGoogle Chromeでページを開いてください。
但し、iPhoneの場合はGoogle Chromeでもダイレクトに再生出来ない動画が多々あります。
Androidの場合は端末のメーカーや機種によるのかもしれませんが、自身が所有するAndroidのスマホとタブレットでは、全動画をダイレクトに再生出来ます。
注意2)Naoya Moroが日本語表記にした発声法は、全てアメリカではちゃんとした練習方法のある一般的なテクニックです。ネイゾルの様に名称が日本で広まった事は光栄なのですが、同業者の方はNaoya Moroが日本語表記にした発声法の名称を使う場合は、必ずNaoya Moroが英語の名称から日本語表記にしたと明記してください。
YouTubeでの選曲は、PVか、音質の良いライブ動画が、YouTubeにある場合は動画を貼っていますが、各発声法の声を説明するページの為に、レコードやCDと同じバージョンの、ジャケットと音源だけの、YouTubeのアートトラックを優先して貼っています。
まずシンガーはなぜボイトレのレッスンを受けるのか?
という疑問を持たれている方もいるかもしれません。
しかしあなたが歌を聴く時はどうでしょう?
以下に、良いと思う要素を3つ挙げます。
1)曲が良い(歌詞や編曲も含めて)
2)歌が上手くて良い
3)声が良い
まず声を良くする為にはボイトレを受けて、ご自身が目指すシンガーの声作りの仕方を学ぶ事が早道です。生徒が課題曲に選んだシンガーの発声法の分析と声作りの仕方を指導します。または生徒の声質や目指す声に合った課題曲の選曲を講師に任せる事も出来ます。そして当教室のレッスンでは発声の応用でも、講師が選んだ洋楽のR&Bやゴスペルの曲を歌いながら、それらの曲の発声法と声作りの仕方も指導します。声が良くなるのはもちろん、知識もつき、歌も上手くなります。
理想の声に近づき、そして本物のR&Bシンガーを目指しましょう!
では、色々な発声法を紹介していきましょう!
チェストボイス 地声
ファルセット(ヘッドボイス) 裏声
ミックスボイス 地声と裏声のミックスで欧米では当たり前な発声法で、洋楽を歌う為にはマスター必須。
ミックスボイス
フィスク・ジュビリー・シンガーズ
動画は19世紀に、黒人が初めて世界的に音楽で成功したフィスク・ジュビリー・シンガーズの近年のメンバーでのミックスボイスです。
フィスク・ジュビリー・シンガーズは19世紀に、黒人も訓練をすれば白人の様に西洋のクラシック音楽が歌えるという事がコンセプトでした。最初はアメリカの北部を周り、最後にはイギリスのヴィクトリア女王の前で歌いました。そして当時、日本にも遠征した程の人気でした。
この事によって、後のゴスペルでもクワイア(聖歌隊)はクラシックの発声法を用いるという伝統が生まれました。
クラシックの発声法で黒人霊歌を歌う音楽スタイルは、当時はジュビリーというジャンル名でした。そしてもちろんその元祖は、このフィスク・ジュビリー・シンガーズです。
フィスク・ジュビリー・シンガーズは、南部のテネシー州ナッシュビルにあるフィスク大学の合唱部の様なグループで、今でも伝統を守る貴重なグループです。
この曲はゴスペルのルーツの黒人霊歌の有名な曲です。
ミックスボイスは元は西洋のクラシック音楽の発声法ですので、ミックスボイスだけで歌うと当然クラシックのオペラの様な声になります。R&Bシンガーはミックスボイスに黒人特有のネイゾルやマウスレゾナンスを加えて声作りをします。ラッパーも同様です。
ミックスボイスの主な種類としては、
女性の場合は、声が高くて明るいトーンのソプラノ、声が低くて暗いトーンのアルト。
男性の場合は、声が高くて明るいトーンのテナー、声が低くて暗いトーンのバリトン。
などの種類があり、それぞれに声の出し方は異なりますが、地声と裏声のミックスという基本は一緒です。
しかしゴスペルクワイアの場合は、伝統的に、ソプラノ、アルト、テナーの三声である為に、バリトンパートはありません。
よってゴスペルのテナーは高い声を出す時には、このページで後に紹介するベルティングを使い、バリトン並みに暗いトーンのミックスボイスで歌います。
同様にソプラノがミックスボイスで高い声を出す時、アルトが暗いトーンで高い声を出す時にもベルティングを使います。
ゴスペルではソプラノも、アルトも、テナーもミックスボイスを使います。ソプラノが「ミックスボイスで高い声」と書いたのは、高い声でも裏声ではない場合という意味です。ソプラノは裏声の様に聞こえても基本はミックスボイスを使っています。
R&Bシンガーの殆どは、教会でゴスペル歌っていた時に、どれかのパートの発声法を身に付けています。
喉声 ミックスボイスは明治維新の後にクラシック音楽の普及と共に日本に入って来て決して新しい発声法ではないが、日本でポップカルチャーが炸裂した1980年代に喉声で歌うポップシンガーが増えて、一時期J-Popでミックスボイスはあまり使われなくなり、今ではミックスボイスは新しい発声法だと勘違いされている。喉声は素人の歌声、ミックスボイスがプロの歌声だと言っても過言ではない。
日本人の声は外国人に比べ喉声が強く、まずは、濁りや、かすれの無い、ミックスボイスをマスターする事が最優先。
ネイゾル 元は黒人シンガーが使う鼻を使った発声法で、3種類あり、今では世界中のポップミュージックで普及している。
注意)ネイゾルは今は無きTriple M music art Classの旧ホームページで、それまでは日本ではナーサルというカタカナ表記だったが、2000年代にNaoya Moroが英語に近い発音のネイゾルというカタカナの日本語表記にした。
ネイゾル
アリシア・キーズ
このアリシア・キーズのPVは、冬に外で歌っていますので息が白く、アリシアが歌っている時に口からも息は出ていますが、鼻からも息が出ているのが解ります。これがネイゾルです。
アリシア・キーズは北部のニューヨーク産まれのR&Bシンガーです。動画は2003年の曲です。
シャウト(トランペット) 3種類のネイゾルの一つ。主にR&Bシンガーとゴスペルシンガーが使う。シャウトは文字通りに、がなり声。しかし別名トランペットと名付けた様に、ジャズではシャウトと同じ原理の発声法で、トランペットの様な声色で、ジャジーな声作りに多用される。またヒップホップ/ラップでもシャウトと同じ原理の発声法で、ニッキー・ミナージュの様に舐めきった様な声作りの時に使われる。日本人の場合は声帯でシャウトするシンガーも多いが、喉を潰すので避けた方が良い。
シャウト
Jodeci
Mo's "MOZ" Mo
動画はK-Ciのシャウトが炸裂しているJodeciの1991年のデビュー曲と、私がサザン・ソウル風のシャウトを使いフックとブリッジを歌っている2021年の音源です。
Jodeciは南部のノース・カロライナ州出身のR&Bグループです。
K-Ciは確かにシャウターですが、サザン・ソウルなどのシンガー程はがなってはいなく、洗練されたシャウトです。こういう声を出すには、まず最初は、いかにもという1960年代ソウルのシャウトオンリーに近い曲から学び始める事が、シャウトをマスターする入門編として最適です。
何故1960年代ソウルなのかというと、1960年代がソウルミュージックにおいてのシャウトの黄金時代であり、そして1970年代頃から、あまり、がならない洗練されたシャウター達が登場し始めたからです。
以下で1960年代を代表するシャウター達を紹介します。但し、マーヴィン・ゲイだけに関しては、シャウターであっても様々な発声法を複雑に組み合わせて使いこなすシンガーでしたので上級編です。もちろん他のシンガーもシャウト以外の発声法も使っていましたが、マーヴィン・ゲイ以外は入門編としてお勧め出来るシンガーを挙げました。
ルーツ
シャウトの歴史は古く、主に1960年代に南部のメンフィスのサザン・ソウルのシンガーに使われていましたが、同時期の北部のシカゴのチェスのソウルシンガーや、北部の1960年代から1970年代が全盛期であったデトロイトのモータウン、同じく北部の1970年代のフィラデルフィアのフィリー・ソウルなどのノーザン・ソウルのシンガーにもシャウターは多く、地域に限られずに使われて現在に至っています。
チェスの正式名称はチェス・レコード。モータウンの正式名称はモータウン・レコード。またフィリー・ソウルの作品の大半はフィラデルフィア・インターナショナル・レコードが作っていました。
サザン・ソウルはその名の通り、アメリカの南部のソウルミュージックです。
ノーザン・ソウルはその名の通り、アメリカの北部のソウルミュージックです。
ソウルシンガーのシャウターのパイオニアとなると、1950年代後半のソウルミュージック誕生時には、"Stand By Me"で知られる、南部のノース・カロライナ州産まれで、北部のニューヨークのハーレム育ちのベン・E・キングが挙げられます。
もっとルーツを辿ると、南部のミシシッピ州産まれで、同じく南部のテネシー州メンフィス育ちで、1950年にデビューして、北部のシカゴのチェスや、南部のメンフィスのサン・レコードで活躍していた、シャウターのルーファス・トーマスがいるのですが、その頃はまだソウルシンガーではなく、ブルースシンガーでしたので、ルーファス・トーマスは1960年代から、メンフィスのスタックス・レコードでソウルミュージックを歌い始めました。
よってソウルミュージックのシャウトのパイオニアは、ベン・E・キングです。
その後の主に1960年代に活躍したシャウターの名シンガーを、サザン・ソウル、ノーザン・ソウル共に挙げると、
サザン・ソウルの代表的なシャウターには、スタックス/ヴォルトのオーティス・レディングやウィルソン・ピケットなどが挙げられます。
一方で、ノーザン・ソウルの代表的なシャウターには、チェスのエタ・ジェイムズ、モータウンのマーヴィン・ゲイなどが挙げられます。
挙げたレコード会社名は、各シンガーが全盛期に在籍していたレーベルです。
スタックス・レコードとヴォルト・レコードは同系列の為に、スタックス/ヴォルトと表記するのが一般的です。
しかし初期のソウルミュージックのルーツの一つに挙げられるのは意外な音楽です。
それは今では白人の音楽として知られるロックンロールです。
ロックンロールは、元々はファッツ・ドミノやリトル・リチャード、チャック・ベリーなどの黒人によって作られた音楽でした。黒人が作ったロックンロールもR&Bの一種でしたので、1950年代から活躍したリトル・リチャードもR&Bのシャウトのパイオニアとして挙げられます。実際に初期のソウルシンガーの多くはドゥーワップと同様に黒人が作ったロックンロールからも影響を受けていました。
しかし元祖ロックンローラーと呼ばれるファッツ・ドミノは、ブルースと違うコード進行の曲や、3連の曲やシャッフルの曲を歌っていますが、典型的なロックンローラーの、リトル・リチャードとチャック・ベリーの二人だけを例に挙げれば、初期のロックンロールはブルースと同じコード進行で、ブルースの様に3連中抜きのシャッフルで跳ねたリズムではなく、8フィールでテンポを速くして演奏するという事が違いでしたので、ブルースから直接進化した音楽であり、ルーツは当然ブルースにあります。
もちろん黒人が作ったロックンロール特有のフレーズや名曲の数々が生まれたのも事実ですし、リトル・リチャードの歌唱法が初期のソウルシンガーに多大な影響を与えたという事は否定出来ません。確かにソウルミュージックのシャウトのパイオニアは、ベン・E・キングですが、リトル・リチャードの方が初期のソウルシンガーに影響を与えていたからです。
そして、もちろん初期のソウルシンガーはドゥーワップと黒人が作ったロックンロールだけではなく、ブルースやゴスペルからも多大な影響を受けていたという事は、誰もが知る事でしょう。
シャウトは、ブルースやジャズ、ゴスペルではもっと昔から使われていました。
ゴスペルにおけるシャウトのパイオニアには、1950年から活躍したゴスペルの王様、ジェームス・クリーブランドがまず挙げられますが、これでは1951年にデビューしたリトル・リチャードが先なのか、ジェームス・クリーブランドが先なのかが、微妙過ぎて分かりません。解る事は、リトル・リチャードは1950年代中盤からシャウターになり、デビュー当初はまだシャウターではありませんでした。
本題に戻り、
黒人が作ったロックンロールがシャウトのルーツなのか?
ゴスペルがシャウトのルーツなのか?
その謎を解くのは、1939年から活躍をしている、名ゴスペル・カルテットのブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマが、1949年のレコードデビュー当時からシャウトを使っていました。
また1942年から活動を始めた、センセーショナル・ナイチンゲールズなどの様に、ゴスペル・カルテットではシャウトはよく使われていたのです。
そして1931年から活躍していた、女性ゴスペル・シンガーのクララ・ウォードはシャウトを得意としていました。よってシャウトの歴史はゴスペルの方が古いのです。
しかしシャウトの歴史はもっと古く、ゴスペルのルーツの黒人霊歌、更に黒人霊歌のルーツのリング・シャウトでも、その名の通りシャウトも使われていますので、遥か昔からシャウトが使われていたのです。
リング・シャウトも黒人霊歌も奴隷時代の音楽です。奴隷制が廃止されたのは19世紀半ばですので、どれだけ昔からあった発声法かが解ります。
つまりは1929年にデビューしたチャーリー・パットンなどの戦前ブルースのシャウター達が登場する以前から、シャウトが使われていたという事です。
もっともニューオリンズ・ジャズのパイオニアの一人のルイ・アームストロングになると、1926年からシャウトを使って歌っているレコードが残っているという事は、ジャズに詳しい人なら知っていると思います。しかしそれ以前からシャウトは使われていたのです。
一方で、ジャズではシャウトと同じ原理の発声法のトランペットも同様に昔から使われていました。
シャウト(トランペット)と表記していますが、シャウトとトランペットは同じ原理の発声法で似た出し方ですが、正確には違う発声法です。
トランペット
ニッキー・ミナージュ
Naoya Moro
動画はトランペットでラップをしているニッキー・ミナージュとドレイクの2010年の曲と、私がニッキーの声に影響を受けてトランペットでラップをしている2015年の音源です。
ニッキー・ミナージュはカリブ産まれで、北部のニューヨーク育ちのヒップホップアーティストです。
ドレイクはカナダ産まれのラッパーです。
ニッキー・ミナージュの発声法は、トランペットオンリーの場合が多く、よってニッキー・ミナージュのトラペットの使い方は初心者でも解りやすく、トランペットをマスターする入門編として最適です。
ルーツ
いきなり、ヒップホップの話になり、驚いた方も多いかと思いますが、シンガーにおけるトランペットです。
トランペットを得意とするシンガーには、往年のジャズのビリー・ホリデイや、ネオ・ソウルのエリカ・バドゥ、また近年ではオルタナティブR&Bのザ・ウィークエンドやSZAなども挙げられます。
ジャズにおいて、トランペットのパイオニアのシンガーは1930年代から活躍したビリー・ホリデイであり、1990年代にエリカ・バドゥがネオ・ソウルにジャズ歌唱を取り入れました。そして2010年代にそのネオ・ソウルから進化した音楽がオルタナティブR&Bですので、当然の流れでしょう。
シャウトのルーツの文で触れた、黒人霊歌のルーツのリング・シャウトの動画は、「ブラックミュージックの歴史」のページのトップに貼ってありますので、是非ご覧ください。その名の通りにシャウトも使われていますが、トランペットの方が主に使われています。奴隷時代から口承で歌い継がれてきた歌い方での貴重な動画です。この様にトランペットのルーツは奴隷時代にまで辿り着くのです。このページでは、フィスク・ジュビリー・シンガーズが歌った、クラシックの歌唱法での黒人霊歌を紹介していますが、黒人霊歌も奴隷時代は、リング・シャウトと同じ発声法で歌われていたと考えられています。
尚、そのリング・シャウトの動画は下のブログ記事にも貼りました。
また他にも奴隷時代の黒人霊歌の歌い方の音源を「ブラックミュージックの歴史」のページに貼っています。
つまりトランペットもシャウトと同様にジャズよりも古くから使われていたのです。
戦前ブルースでは、伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンもトランペットを使っていました。1930年代に活躍したロバート・ジョンソンは、トランペットと後に紹介するマウスレゾナンスを使い分けていました。よってロバート・ジョンソンはブルースにおけるトランペットのパイオニアだと言えます。
そしてトランペットは意外にもラッパーに受け継がれました。
これで何故、ニッキー・ミナージュとドレイクの曲を第一に紹介したのかが納得いく事かと思います。
ウィスパーボイス(ストリングス) 3種類のネイゾルの一つ。シャウトと同様に声帯でウィスパーボイスを出す事も可能で、文字通り囁く様な声作りから、別名ストリングスと名付けた様にオーケストラのストリングス(弦楽器)の様な声色で、大きな声でのハスキーな声作りも出来る。ウィスパーボイスはシャウトとは違い、声帯で発声しても喉を痛めないが、黒人シンガーはネイゾルのウィスパーボイスを使う。
ウィスパーボイス
ブライアン・マックナイト
TMGC
動画はウィスパー主体のシンガー、ブライアン・マックナイトの2001年の曲と、旧教室のTMGCというゴスペルクワイアのライブで、私がシンセと電子ピアノの2段キーボードを弾きながら、ソリストとしてウィスパー気味にゴスペルスタンダードを歌っている2014年のカバー音源です(ライブ演奏の為、私の歌も含め全体に少々荒いパフォーマンスの音源です)。
ブライアン・マックナイトは北部のニューヨーク州産まれのR&Bシンガーです。
ブライアン・マックナイトの発声法は、男性のウィスパーの出し方の良い見本です。それは1970年代から1980年代のウィスパーのシンガーは、次に紹介をするクライングと組み合わせていますのでレベルが上がるからです。しかしウィスパーをマスターする入門編としては、ブライアン・マックナイトも若干クライングと組み合わせていますので、少々難易度が高くなります。よって中級編としてブライアン・マックナイトの発声法を学ぶという事は、ウィスパーをマスターするのに最適です。
ルーツ
まず男性ソウルシンガーのウィスパーのパイオニアは、現代R&Bにおいては、1970年にニュー・ソウルのアーティストとしてデビューした、北部のイリノイ州シカゴ産まれで、北部のミズーリ州セントルイス育ちのダニー・ハサウェイです。
ミズーリ州は北部ですが、州の一部は南部でしたので歴史的に定義が複雑な州です。
ダニー・ハサウェイがハスキーな声のネイゾルのウィスバーボイスと、次に紹介をするパワフルな声のネイゾルのクライングを組み合わせて作り出した、ハスキーでもパワフルに熱唱する歌唱スタイルは、同時期に活躍をしたテディ・ペンダーグラス、後の1980年代にデビューしたルーサー・ヴァンドロス、ジェームス・イングラムなどに受け継がれました。
そしてその後も、ウィスパーでハスキーに語りかけながらも熱唱するという新しい歌唱法を作った、1990年代にデビューしたブライアン・マックナイトなどにも、その歌唱法は受け継がれました。
しかしダニー・ハサウェイは、現代R&Bにおけるウィスパーのパイオニアですので、更にルーツを辿ると、1960年代から本格的に活躍をしたソロモン・バークなどの先駆者がいましたが、もっとルーツを辿ると、1950年代から本格的に活躍をしていたレイ・チャールズに辿り着きます。またレイ・チャールズと同時期に活躍をし始めた、ロックンロールの生みの親であるファッツ・ドミノもルーツの一人です。前述の様にロックンロールのルーツはブルースにあります。
当ページでは黒人が作ったロックンロールと書き、白人ロックと区別していますが、ロックンロールは元は黒人が作った音楽であるという事は、白人も認めている事です。つまりはファッツ・ドミノは黒人ロック、白人ロックを問わずにロックンロールの生みの親という事ですので、あえてロックンロールの生みの親と書き、黒人が作ったロックンロールの生みの親とは書きませんでした。もちろんファッツ・ドミノは黒人のロックンローラーです。
ウィスパーボイス
ドージャ・キャット
Mo's "MOZ" Mo
動画はウィスパーを多用しているドージャ・キャットの2019年の大ヒット曲と、私が若干、女性の声の様なウィスパーを1コーラス目のラップの2箇所だけで使っている2021年の音源です。
ドージャ・キャットはカリフォルニア州ロサンゼルス産まれのR&Bシンガー/ラッパーです。
ドージャ・キャットの動画の曲で分かりやすいのは、歌はウィスパー主体ですが、ラップではトランペットを使っています。この曲でのドージャ・キャットの歌のサビの発声法は、ほぼウィスパーオンリーですので、ウィスパーをマスターする入門編として最適な曲です。
ルーツ
そして女性ソウルシンガーのウィスパーのパイオニアは、1960年にデビューした、北部のミスガン州デトロイト産まれのダイアナ・ロスですが、いわゆるウィスパーは、北部のイリノイ州シカゴ出身の女性R&Bトリオで、当時は南部のメンフィスのスタックス/ヴォルトのアーティストだった、エモーショズの1969年の"So I Can Love You"で、本格的にウィスパーがR&Bに取り入れられました。
と言いますのも、ダイアナ・ロスのデビュー当時の歌声は、そこまでウィスパーではありませんでした。スプリーム在籍時に徐々にウィスパーを使う様になり、むしろ1969年にスプリームスを脱退して、その翌年の1970年にソロデビューをしてから、よりウィスパーを使う事が多くなりました。
ダイアナ・ロスと並ぶくらいの、ウィスパーを使う代表的な女性R&Bシンガーにはジャネット・ジャクソンが挙げられます。
しかしウィスパーはドージャ・キャットが使っている事でも解る様に、多くの女性R&Bシンガーが使い現在に至っています。
それは「ヒップホップ世代のウィスパーボイス」というブログ記事で、1990年代以降のウィスパーを歌われて名曲を紹介しています。
ウィスパーボイスの歴史も古く、ブルースやジャズではもっと昔から使われていました。
最近のゴスペルではウィスパーがよく使われていますが、1930年代にトーマス・A・ドーシーによってゴスペルが誕生してから長い間、ゴスペルではウィスパーは使われていませんでした。
1960年代後半にエドウィン・ホーキンスがゴスペルにR&Bの要素を取り入れて作った、コンテンポラリー・ゴスペルは、1980年代中盤にジョン・P・キーによって今日のサウンドに完成されました。そのコンテンポラリー・ゴスペルが誕生した時代から、ソリストがウィスパーを使う様になりました。クワイアの発声法はミックスボイスが主体でした。
そして、クワイアの発声法にウィスパーを取り入れたのは、カーク・フランクリンであり1990年代中盤の事でした。そのカーク・フランクリンがゴスペルにヒップホップ・ソウルの要素を取り入れて作った、アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルが誕生した時代から、クワイアもウィスパーを使う様になりました。しかしながらクワイアがミックスボイスを使うという長い伝統は今でも守られています。
コンテンポラリー・ゴスペル誕生前のゴスペルでは、ゴスペルの女王のマヘリア・ジャクソンは次に紹介するクライングという発声法を主に使っていました。ゴスペルの王様のジェームス・クリーブランドは前述の様にシャウトを主に使っていました。
ジャズにおけるウィスパーは、主に白人のジャズシンガーが得意としていました。白人シンガーは喉のウィスパーを使うという傾向がありますが、ヘレン・メリルやジュリー・ロンドンなどは白人でもネイゾルのウィスパーを使っていました。
ブルースにおけるウィスパーのパイオニアは、1940年代にモダン・ブルースを確立した、T-ボーン・ウォーカーです。
その後のブルースでは、シカゴ・ブルースのジミー・リードの1957年の"Honest I Do"が、ブルースにおいてR&Bの要素を取り入れたウィスパーが使われた最初の曲と言って良いでしょう。
しかし戦前ブルースにウィスパーのルーツを辿ると、盲目のブルースマン、ブラインド・ウィリー・ジョンソンが1927年にウィスパーを使って歌った"Dark Was the Night, Cold Was the Ground"という曲に辿り着きます。
ブラインド・ウィリー・ジョンソンは他の曲では、シャウトを使っていますが、ネイゾルのシャウトではなく、喉を潰した為にダミ声になったという説があります。
ソウルフルボイス(クライング) 3種類のネイゾルの一つ。アリシア・キーズは主にクライングを使っているが、ハスキーな声はウィスパーボイスと組み合わせている。ソウルフルボイスは文字通りソウルフルな声作りから、別名クライングと名付けた様に泣き声自体はこもっているが、歌で使うと透き通った非常にクリアな声色ながらに、ピーボ・ブライソンの様なサックスの様なパワーのある声作りや、ミニー・リパートンの様なフルートの様に可愛らしく繊細な声作りも出来る。またエモーショナルな歌唱表現も出来る。ソウルの女王ことアレサ・フランクリンは、デビュー当時はクライングと後に紹介するマウスレゾナンスの組み合わせが主体だった。同じくソウルの女王と称されるグラディス・ナイトもクライングが主体。またシャウトの紹介で動画を貼ったK-Ciはシャウトとクライングを組み合わせている。
この様にクライングは、シャウトかウィスパーと組み合わせられて、どちらも重量感のあるパワフルな声に出来る。
よってネイゾルを習得する為には、まずはクライングで、濁りや、かすれの無い、クリアな声を出せる様にする事が第一優先。
クライングは明るいトーンから暗いトーンまで調整出来る為に、
男性R&Bシンガーの場合は、動画を貼っているボーイズIIメンのウォンヤ・モリスは暗いトーンのクライングで歌い、ブログ記事に動画を貼っているピーボ・ブライソンは明るいのトーンのクライングで歌っていて、どちらもパワフルな声。
女性R&Bシンガーの場合も、動画を貼っているアリシア・キーズはやや暗いトーンのクライングで歌い、ブログ記事に動画をっているミニー・リパートンは明るいトーンのクライングで歌っている。アリシア・キーズは歌い出しはブルージーで繊細な歌い方だがサビはパワフルな声、ミニー・リパートンは全体に繊細な歌い方でクリアな声。
ピーボ・ブライソンとミニー・リパートンの歌声は、下の「明るいトーンのクライング」というブログ記事に動画を貼っていて、聴く事が出来る。
注意)トーンに関しては初心者向けに、明るいトーン、暗いトーン、で説明をし、分かりやすいシンガーを例に挙げているが、もちろん、中間のトーン、もある。
尚、ソウルフルボイスはクライングに当てはまる名称がない為に曖昧な表記にした。
クライング
ボーイズIIメン
Mo's "MOZ" Mo
動画はボーイズIIメンの1992年の大ヒット曲と、私がクライングで3コーラス目(ブリッジ)で歌っている2021年の音源です。
ボーイズIIメンは北部のペンシルベニア州フィラデルフィア出身のR&Bグループです。
ボーイズIIメンの曲は、Bメロを歌っているウォンヤ・モリスの発声法が、クライングオンリーで、これがまさにクライングと言える見本的なクライングですので、クライングをマスターする入門編として最適な曲です。女性の場合は、前出のネイゾルの紹介で貼ってある、アリシア・キーズの曲のサビの発声法も、クライングオンリーで、クライングをマスターする入門編として最適な曲です。
ボーイズIIメンの曲でもう一点注目して欲しいのは、サビのコーラスは主にウィスパーを使い、ソリストのアドリブが引き立つという手法を使っています。この手法は1960年代にモータウンが確立しましたが、1970年代にフィリー・ソウルで、より現在に近い形に確立されました。
ボーイズIIメンはフィラデルフィア出身のグループでモータウンからデビューしたからという事もあるかもしれませんが、これは今でも使う手法です。
ルーツ
クライングの歴史も古く、アメリカの黒人は話し声自体がクライングの人も多いですので、いつからとは言えません。
R&Bのクライングのパイオニアとなると、R&Bが誕生した1940年代は主にジャズマンがR&Bを作っていましたので、そのジャンプ・ブルース、通称ジャイヴと呼ばれるジャンルのアーティストとして知られ、またR&Bのパイオニアのアーティストとしても知られる、南部のアーカンソー州産まれのルイ・ジョーダンなどが挙げられます。
一方で、ジャイヴを代表するシンガーの、ニューヨーク産まれのキャブ・キャロウェイは、もっとジャズ寄りの歌唱法でしたので、クライングも得意としていましたが、トランペットを多用していました。
1950年代からレイ・チャールズなどのR&BアーティストがR&Bを作る様になりました。
またその時期からソウルミュージックの誕生までに、北部のティーンの間で流行ったドゥーワップは、主にクライングを使うシンガーが多かったジャンルです。レイ・チャールズもクライングを使いますが、前述の様にR&Bにおけるウィスパーのルーツ的な存在ですので、ウィスパーとクライング、そして次に紹介をするマウスレゾナンスを組み合わせます。
よってドゥーワップグループのシンガー達もクライングのルーツとして挙げられます。有名なのはフランキー・ライモンという、当時はアイドル的な人気だった少年シンガーが真っ先に挙げれます。
ソウルシンガーでは、元祖ソウルマンのサム・クックと同時期にデビューした、大まかには北部のミシガン州デトロイト産まれのジャッキー・ウィルソンがクライングを得意としていましたので、ソウルミュージックのクライングのパイオニアは、そのジャッキー・ウィルソンです。
クライングは、ブルースやジャズ、ゴスペルではもっと昔から使われていました。
ゴスペルにおけるクライングのパイオニアは、前出のゴスペルの女王、マヘリア・ジャクソンです。
また同時期に活躍をしたシスター・ロゼッタ・サープもゴスペルのクライングのパイオニアの一人です。
ゴスペルにおいては昔はシャウトがソリストに多用されましたが、時代の流行りもあり今はそれ程にシャウトは使われていません。パワフルな声で歌う事が多いゴスペルにおいては、クライングは昔からも、そして現在もソリストの主流な発声法です。
ジャズでクライングを得意としていたのは、エラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンなどですが、クライングも古い歴史を持つ発声法ですので、1920年代から1930年代に流行したスウィング・ジャズの時代から既に使われていました。
しかしスウィング・ジャズと同時期ですが、ジャズが発祥した南部のルイジアナ州ニューオリンズのニューオリンズ・ジャズでも、女性ジャズシンガーのスウィート・エマ・バレットなどにより1920年代からクライングは使われていました。
リズム&ブルースのルーツのブルースで、クライングの分かりやすい例に挙げられるのはB.B.キングのパワフルな歌声です。B.B.キングはクライングの他にもシャウトや次に紹介をするマウスレゾナンスを使っています。
1950年にB.B.キングがデビューする以前のブルースシンガーは、そのマウスレゾナンスか前出のシャウトを使うシンガーが主でしたので、メンフィスのB.B.キングがモダン・ブルースのクライングのパイオニアと言っても良いでしょう。
しかし、更にブルースでクライングを使ったシンガーのルーツを辿ると、1920年代から活躍した女性ブルースシンガーのベッシー・スミスにまで辿り着きます。
また1956年にデビューした、シカゴ・ブルースのオーティス・ラッシュの大迫力のクライングも強烈です。
オーティス・ラッシュもマウスレゾナンスを使い、時にファルセットも使うのですが、そのファルセットでよりディープさが増していました。
注意)トランペット、ストリングス、クライングは指導する際に解りやすい様にNaoya Moroが2010年代に名付けた。
マウスレゾナンス 元はアフリカの発声法で、アメリカのR&Bシンガーやゴスペルシンガー、またカリブのジャマイカのレゲエシンガーも使う。マウスレゾナンスはアメリカでは、1960年代〜1970年代にサザン・ソウルを中心に流行り、その後にファンクで流行り、そしてその延長線上でディスコ・ミュージックでも流行り、1990年代初頭にディスコブームの終わりと共に一時期廃れたが、ヒップホップ・ソウルでは異例の歌い方のTLCのT-ボズを除けば殆ど使われなかった。
しかし2000年代にカリブ出身のリアーナがデビューして、当時はリアーナのカリブのマウスレゾナンスはアメリカでは異質な声質の存在だったが、2010年代後半、特に2020年代にアメリカでリアーナのフォロワー達によってマウスレゾナンスは復活した。尚、当時もレゲエが誕生したカリブではリアーナの声は異質ではなかった。
アメリカのマウスレゾナンスと、カリブのマウスレゾナンスは声色は異なるが、元はアフリカの発声法という共通点がある。
リアーナはネイゾルとマウスレゾナンスを組み合わせている。
またノーザン・ソウルでも、モータウンのスティーヴィー・ワンダーはデビュー当時から現在に至るまで、時代に左右されずにマウスレゾナンスを使っている。そしてモータウン出身のマーヴィン・ゲイも同様にマウスレゾナンスを得意としていた。やはり同じくモータウン出身のマイケル・ジャクソンはシャウトなどのネイゾルも多用するが、基本はマウスレゾナンス。
という様にサザン・ソウルに限られた発声法ではない。
繰り返しになりますが、
サザン・ソウルはその名の通り、アメリカの南部のソウルミュージック。
ノーザン・ソウルはその名の通り、アメリカの北部のソウルミュージック。
マウスレゾナンスもクライングと同様に明るいトーンから暗いトーンまで調整出来るが、R&Bシンガーやソウルシンガーは明るいトーンのマウスレゾナンスを好む傾向があり、ブルースシンガーやゴスペルシンガーは暗いトーンのマウスレゾナンスを好む傾向がある。動画を貼っているR&Bシンガーで言えば、サム・クック、スティーヴィー・ワンダー、アイズレー・ブラザーズ、クリス・ブラウンは明るいトーンのマウスレゾナンス。
もちろんR&Bシンガーでも暗いトーンのマウスレゾナンスを好むシンガーもいれば、ブルースシンガーやゴスペルシンガーでも明るいトーンのマウスレゾナンスを好むシンガーもいる。動画を貼っているR&Bシンガーで言えば、リアーナ、TLCのT-ボズは暗いトーンのマウスレゾナンス。
このページで紹介している男性シンガー達は、明るいトーンのマウスレゾナンスで歌うシンガーが多く、女性シンガーに関しては、動画を貼っているリアーナは暗いトーンのマウスレゾナンスで歌っている。しかし男性で暗いトーンのマウスレゾナンスで歌うシンガーもいれば、女性で明るいトーンのマウスレゾナンスで歌うシンガーもいる。暗いトーンのマウスレゾナンスで歌う男性R&Bシンガーにはバリー・ホワイトなどが挙げられ、一方で明るいトーンのマウスレゾナンスで歌う女性R&Bシンガーにはチャカ・カーンなどが挙げられる。
注意)トーンに関しては初心者向けに、明るいトーン、暗いトーン、で説明をし、分かりやすいシンガーを例に挙げているが、もちろん、中間のトーン、もある。
マウスレゾナンス
リアーナ
Mo's "MOZ" Mo
動画はカリブのマウスレゾナンスを使っているリアーナの2005年のデビュー曲と、私がアフリカ風のマウスレゾナンスを使ってフックを歌っている2022年の音源です。
リアーナはカリブ産まれで、アメリカで活躍しているR&Bシンガーです。
リアーナの発声法を模範にしているのは、アメリカの黒人女性R&Bシンガーだけではなく、K-PopのBLACKPINKや日本のXGなどが挙げられ、今はリアーナの発声法を再現するという事が一種のステイタスです。リアーナの発声法は、マウスレゾナンスとネイゾルの複雑な組み合わせ方ですので上級編ですが、今が旬の発声法です。まず最初は、元祖ソウルマンのサム・クックの曲から学び始める事が、マウスレゾナンスをマスターする入門編として最適です。
ルーツ
マウスレゾナンスはアメリカの黒人のルーツのアフリカの発声ですので、当然歴史は古く、いつから使われているとも言えません。
ソウルミュージックのマウスレゾナンスのパイオニアは、1957年にデビューした、元祖ソウルマンのサム・クックです。
ソウルシンガーとしてデビューする前は、ソウル・スターラーズというゴスペルグループのリードボーカリストとして、既に有名でした。
その後の1960年代と1970年代にマウスレゾナンスを得意とした名シンガーを、サザン・ソウル、ノーザン・ソウル共に挙げると、
サザン・ソウルではスタックス/ヴォルトのオーティス・レディングや、アトランティックのアレサ・フランクリン、そしてハイ・レコードのアル・グリーンなどが挙げられます。
ノーザン・ソウルではモータウンのスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイなどが挙げられます。
挙げたレコード会社名は、各シンガーが全盛期に在籍していたレーベルです。
その後は、ファンクやディスコ・ミュージックでマウスレゾナンスが流行りました。
よりアフリカ的なマウスレゾナンスを使った例として、大分アメリカナイズされていますが、ファンクの王様として知られる、ジェームス・ブラウンが挙げられます。オーティス・レディングのマウスレゾナンスの使い方はややアフリカ的です。
ジェームス・ブラウンは「ファンクとディスコ・ミュージックで流行ったマウスレゾナンス」というブログ記事に動画を貼っています。
また、1970年に誕生した、ニュー・ソウルでマウスレゾナンスを得意としていたのは、カーティス・メイフィールドでした。カーティス・メイフィールドはダニー・ハサウェイと同じ1970年にソロデビューしていましたので、ニュー・ソウルのパイオニアの一人です。
そのニュー・ソウルに影響を受けた、スウィートな声でのソウルフルなマウスレゾナンスでの歌唱法は、マーヴィン・ゲイやアイズレー・ブラザーズなどがルーツとして挙げられます。
このマウスレゾナンスを用いてスウィートな声で官能的にソウルフルに歌うという歌唱法は、完全にアメリカの黒人が作った歌唱スタイルです。この歌唱法は、後にR・ケリーやジョーなどに受け継がれて、現在に至っています。そして、この歌唱法のルーツは前出のカーティス・メイフィールドの歌唱法にあります。
この様にファンクでもジェームス・ブラウンを筆頭にアイズレー・ブラザーズに至るまでマウスレゾナンスは流行りました。
そして1970年代中盤から、ファンクとフィリー・ソウルをルーツとした、ディスコ・ミュージックでもマウスレゾナンスが流行りましたが、1990年代にクラブ・ミュージックのヒップホップ・ソウルが誕生し、クラブブームとなり、それと同時にディスコブームは終わり、マウスレゾナンスも一時期廃れました。
しかしヒップホップ・ソウル誕生前に、同様にヒップホップを取り入れたニュージャックスウィングでは、マウスレゾナンス主体のシンガーもいました。代表的なシンガーにボビー・ブラウンなどが挙げられます。
ルーツのアフリカの発声法の為に、ヒップホップ・ソウルでもネイゾル主体ながらにもマウスレゾナンスも部分的に使われていました。TLCのT-ボズは分かり易いので例に挙げていていますが、当時もT-ボズ以外にもマウスレゾナンス主体のシンガーは少数派でしたが、いる事はいました。
T-ボズも正確には、リアーナと同様にネイゾルとマウスレゾナンスを組み合わせています。
やはり1990年代に誕生したネオ・ソウルでは、ディアンジェロは、ファルセット寄りのミックスボイスに、クライングとマウスレゾナンスを加えていました。
ヒップホップ・ソウル登場以降で、あらゆるネイゾルとマウスレゾナンスを組み合わせているシンガーには、ビヨンセが挙げられます。ビヨンセは1990年代から現在に至るまで第一線で活躍をしています。
男性で言えば、2000年代でもクリス・ブラウンはマウスレゾナンス主体の発声法でした。よってクリス・ブラウンに影響を受けたシンガーはマウスレゾナンスを使っています。
今の男性シンガーは、ザ・ウィークエンドを例に挙げればネイゾルとマウスレゾナンスを使い分けています。
一方で、ソウルミュージック誕生前のマウスレゾナンスのルーツを辿ると、シカゴのチェスのロックンローラー、チャック・ベリーに辿り着きます。
前述の様に黒人が作ったロックンロールもR&Bの一種でしたので、チャック・ベリーもマウスレゾナンスのパイオニアの一人です。もちろんチャック・ベリーは黒人のロックンローラーです。
そしてそのチャック・ベリーをはじめとした黒人のロックンローラー達は、前述の様にブルースから影響を受けていましたので、当然ブルースにルーツがあります。
但し、チャック・ベリーの場合は白人ロックに多大な影響を与えましたが、リトル・リチャード程に黒人のソウルシンガーに多大な影響力があったとは思えません。よってそれ以前の音楽にルーツがあると言えます。
マウスレゾナンスは、ブルースやジャズ、ゴスペルではもっと昔から使われていました。
ジャズではナット・キング・コールやダイナ・ワシントンなどがマウスレゾナンスを得意としていましたが、アフリカの発声法ですので、ジャズが発祥したニューオリンズ・ジャズの時代から使われていました。
ブルースでのマウスレゾナンスのパイオニアと言えば、前出の伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンが、その一人に挙げられます。ロバート・ジョンソンは前述の様に1930年代に活躍をしました。
女性ブルースシンガーでは、1929年に初レコーディングをした、メンフィス・ミニーが、マウスレゾナンスのパイオニアに挙げられます。
また1926年に初めてブルースをレコーディングした、ブラインド・レモン・ジェファーソンもマウスレゾナンスです。
ゴスペルのマウスレゾナンスのルーツを辿るとシャウトやトランペットと同様に、黒人霊歌のルーツのリング・シャウトの時代にまで辿り着きます。元はアフリカの発声法ですので、奴隷時代から使われていたという事は当然なのかもしれません。
よってネイゾルに比べると少人数派ですが、ゴスペルではいつの時代もマウスレゾナンスを使うソリストがいます。
更なるルーツ
下の音源は東アフリカのケニアのマサイ族が、マウスレゾナンスで歌っている伝統音楽です。
聴いて分かる様にアフリカのマウスレゾナンスには、クリアな声と、おじさんやおばさんの様なダミ声の2種類があります。
これはアメリカのマウスレゾナンスも同様です。
アメリカの黒人のルーツは主にナイジェリアなどの西アフリカにありますが、西アフリカの音楽はジャンベなどの太鼓を主体とした音楽ですので、あえて東アフリカのマサイ族の歌唱を例に挙げています。
1960年代からアメリカの黒人達は、自分達の文化も含むルーツと黒人の力を示す言語として、マサイ族も話すスワヒリ語を学ぶという教育が普及しましたので、マサイ族の歌唱を例に挙げたのは、アメリカの教育的にも的を得ていると思います。
注意)マウスレゾナンスは今は無きTriple M music art Classの旧ホームページで、2000年代にNaoya Moroが英語の名称から、カタカナの日本語表記にした。
アフリカのマウスレゾナンス
マサイ族
ミックスボイス、ネイゾル3種類、マウスレゾナンスをマスターした後の上級テクニックとして、ネイゾルとマウスレゾナンスは組み合わせる事が出来る為に、その組み合わせの方法を学ぶ事で、よりソウルフルでブルージーな発声や、よりスウィートな発声などをマスター出来ます。また受講生が女性の場合は、今の女性R&Bシンガーの多くが模範としているリアーナの様な発声まで、様々な発声と表現が出来る様になります。
ヒップホップ色と個性の強いT-ボズや、リアーナの様な声でネイゾルとマウスレゾナンスを組み合わせ方をするシンガーの特徴として共通する事は、ネイゾルはトランペットを使うというところにあります。
一般的なR&Bシンガーやラッパーは、シャウト、ウィスパー、クライングのいずれかをマウスレゾナンスと組み合わせている事が多いです。
これまでは、発声そのものの種類を紹介してきましたが、ここからは発声の際に使う基礎テクニックの紹介です
サポート 歌う時に横腹の筋肉を使うテクニック。サポートを使うことで歌い出しのインパクトが増し、アクセントも強調される。特にハモりの出だしにはサポートを使うとハウーンという様な、完全にハモった時のみに出る特有の共鳴した音が鳴る。解りやすく言えばピアノのタッチを歌で表現する様なテクニックで、マスターする事で歌が際立ち、プロ的な歌唱になる。簡単に説明をするとサポートを使わないのは喋り声、サポートを使ったのが歌声。
注意)サポートは英語で横腹の筋肉のサポートマッスルを使うという意味の略で、サポートは今は無きTriple M music art Classの旧ホームページで、2000年代にNaoya Moroが英語の名称からカタカナの日本語表記にした。注意点は、文字通り解説するとサポートマッスルの略という意味のサポートという名称だが、実際は横隔膜が下がる事で横腹が出っ張るテクニックで、横腹のサポートマッスルは使わない。
これは初心者でも必須な基礎テクニックです。
ベルティングボイス 元はイタリアの発声法で、地声で高い音域が出せるクラシックのベルカント。主にオペラ歌手やゴスペルシンガーが使うテクニックだが、ポップミュージックでもよく使われる。殆どの熱唱系R&Bシンガーはゴスペル歌唱を用いて、高い音域はファルセットはあまり使わずに、ミックスボイスとベルティングを組み合わせている。
解りやすく「地声で高い音域が出せる」と書いたが、R&Bやゴスペル、ヒップホップでは、いわゆる地声は使わない為に、正確には裏声ではなく、ミックスボイスで高い音域が出せるという意味。
注意)ベルティングボイスとベルトボイスは全く同じテクニック。ベルカントとベルティングもほぼ同様のテクニック。ポップミュージックでベルカントを使ったのがベルティングだと言っても間違いではない。
基礎テクニックに入れましたが、中級、上級テクニックでもあります。
ベルティング
スモーキー・ノーフル
Mo's "MOZ" Mo
動画はゴスペルシンガーのスモーキー・ノーフルの2004年のアルバムに収録されているベルティングを多用している曲のライブパフォーマンスと、私が若干ベルティングを使ってフックとブリッジの後のパートで歌っている2021年の音源です。
スモーキー・ノーフルは南部のアーカンソー州出身のゴスペルアーティストです。
そしてホイットニー・ヒューストンの有名な「エンダーイヤー」というフレーズです。これもベルティングです。
そこからエンディングでクールダウンするまで、ベルティングを使いっぱなしで、ベルティングの見本と呼べる名歌唱です。
その名歌唱として有名な「エンダーイヤー」は、3:09からです。
ホイットニーはニューヨークに近い北部のニュージャージー州産まれです。動画は1992年の大ヒット曲です。
この曲はホイットニーがカントリー・ミュージックの曲のカバーしたという事でも有名ですが、原曲はカントリーシンガーのドリー・パートンの1974年の曲です。
ホイットニー・ヒューストン
レンジ レンジは歌で使える音域。トレーニングをする事で低音、高音共に歌で使える音域を広げる事が可能。トレーニングをする事で女性でもアカペラのベースシンガーが出来る程の低音が出せて、地声での高音はベルティングをマスターする事で歌で使えるレンジを広げられる。この様にトレーニングをすれば低音、高音共に歌で使えるレンジを広げる事が出来て、より幅広い楽曲、またより高度な楽曲を歌える様になる。
基礎テクニックに入れましたが、レンジはレッスンを受ける事で徐々に広がりますので、歌を続ける以上は永遠の課題です。
最後は究極の発声法の紹介です
ホイッスルボイス 女性のみが出る超音波の様な超高音。指導経験上、女性の5人に1人はマライア・キャリー自身が子供の時に偶然にホイッスルボイスが出た時の再現ビデオを基にした練習法で出る様になる。
ホイッスルボイス
マライア・キャリー
動画はホイッスルと言えばマライア。マライアのホイッスルと言えば、1991年の大ヒット曲の、この曲です。
マライア・キャリーは北部のニューヨーク州産まれのR&Bシンガーです。
ホイッスルは出なかったとしても、一部のR&Bシンガーしか使わない発声法ですので、落ち込む必要はありません。
色々な発声法を紹介しましたが、ミックスボイスの説明の際に書いた様に、基本は喉はミックスボイスで、それにネイゾルやマウスレゾナンスを加えて黒人のR&Bシンガー、ゴスペルシンガー、ラッパーは声作りをしています。
ヒップホップ/ラップの発声法は、「黒人の発声法(ヒップホップ編)」をご覧ください。
しかし、このページを読んで解る様に、R&Bボーカル、ラップをマスターするには、ブラックミュージックの歴史を知らなければ、実際に曲を歌ったり、ラップする際の、各発声法と各テクニックの使い方はマスター出来ません。
仮に発声法やテクニックをマスターしても、歴史を知らなければ、ブラックミュージックを歌うポップシンガーで止まってしまいます。そして本物のR&Bシンガーにはなれません。
この「黒人の発声法」のページでは、主にそれぞれの発声法のルーツを辿っていますが、「ブラックミュージックの歴史」のページでは、奴隷時代のリング・シャウトと黒人霊歌から、現在のトラップ・ソウルやオルタナティブR&Bに至るまで、時代とジャンルごとに、PVやライブ動画と説明文で詳しく紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。
白人の発声法との違い
白人のポップシンガーは、声をハスキーにするのに、ネイゾルのウィスパーではなく喉でウィスパーを使う場合が多いです。
つまりミックスボイスですが、かすれたミックスボイスという事です。
黒人シンガーは喉は常にクリアなミックスボイスを使い、声をハスキーにする時はネイゾルのウィスパーを使います。
白人と黒人の発声法はこの様に基礎が異なるのです。
もちろんミックスボイスは西洋のクラシックにルーツがあり、白人のオペラシンガーのミックスボイスはクリアですが、白人のポップシンガーとなると喉でハスキーにする為に、ミックスボイスをかすれさすという傾向があります。
ブラックミュージック研究所が主催する、オンライン音楽教室のTriple M music art Classでは、
Mo's "MOZ" MoことNaoya Moroの指導によって、このページに書いてある全ての発声法を学んで頂く事が出来ます。
ビデオ通話でのオンラインレッスンですので全国どこでも受講可能です(プライベートレッスン)。
詳しくは「レッスン」のページをご覧ください。
Naoya Moroの歌とラップ、Naoya Moroが指導したシンガーとラッパーの歌とラップも聴けます。
またオンラインレッスンの参考資料動画も貼っていますので、ぜひご視聴ください。
Naoyo Moroが指導したシンガー達
オンラインレッスンのレッスン風景画像
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